率先躬行・活模範|マティス国防長官のファルージャでの戦いから
トランプ氏が『将軍の中の将軍』と呼んだジェームズ・マティス国防長官が来日して、中国の海洋進出問題や尖閣諸島の日米安全保障条約の適用範囲など様々な安全保障問題が稲田防衛大臣と話し合われた。
一部メディアでは、日本の安全保障問題よりも、マティス国防長官が「狂犬」と呼ばれていることに着目、戦争屋、非人道的人物等と酷評することに熱心であった。
彼が「狂犬」と呼ばれるようになったのは、湾岸戦争の中でも最大の激戦であったとされる、バグダッドの西にあるファルージャでの戦であった。
彼は、最も安全な後方で図面を片手に指揮する第一海兵師団の師団長の地位にありながら、味方の劣勢が伝えられると銃を持ち前線に駆けつけて勇敢に戦い、兵士たちの士気を鼓舞した姿から、『Mad Dog』(狂犬)と呼ばれるようになった。
日本のメディアは何にでも噛みつく「狂犬」として報じていが、戦場において味方が劣勢の場合、恐怖が先立ち、戦線の兵士は浮足立ち、マイナス思考の連鎖により戦線が崩壊する。
このマイナスの連鎖を食い止めることが出来るか否かにより、戦いの風向きが大きく変わる。正に指揮官の真価が問われる。日本のメディアが言うような、ただ機関銃を持って撃ちまくる戦争好きの男の話ではない。
戦闘では、勇気と決断が戦勢を左右し、常に敵を恐れない精神を維持していなければ、戦いに勝てない。
マティスがファルージャでの戦で示したのは、指揮官として常に全般の状況を念頭に置き、自ら兵士の陣頭に立ち、自身が勝利を確信した強い意志と敵を恐れない態度を示すことで、浮足だった兵士の心をマイナス思考からプラス思考に転換させた率先躬行型の指揮であった。
マティスのように、自らが陣頭に立ち部下と共に戦う指揮官の姿を旧軍の戦陣訓では、「率先躬行」(そっせんきゅうこう)として4文字熟語で表し「幹部は熱誠以て百行の範たるべし。上正しからざれば下必ず乱る。」「戦陣は実行を尚ぶ。躬を以て衆に先んじ毅然として行ふべし。」(戦陣訓 本訓其の二)と記しているが、人の上に立つ者は、常に自己修練に努め、自分自身が生きた見本(活模範)を示すことが、統率のコツだとしている。
軍人にとって任務は、尊厳で何よりも優先される。そのため、あらゆる心魂を傾注するとともに、部下に対しては活模範を示し、部下の活きた見本とならなくては、任務の完遂はできない。自分の責任を大切にする者こそ、戦場における真の勇者なのである。
多様な価値観の中で部下を統率していくには、マティス国務長官が軍人として態度で示したように、自分の任務(仕事)を大切にし、率先躬行・活模範の精神をもって、部下を率いて行かなければ、グローバル化の光と影が交差する新時代を乗り切ることはできない。