金正男暗殺事件から北朝鮮外交を垣間見る

北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の異母兄である金正男(キム・ジョンナム)がマレーシアのクアラルンプール国際空港で、2月13日二人組の女性によって毒殺された事件の報道を見て、多くの日本人は日本と友好関係にあるマレーシアに北朝鮮大使館があり、しかもビザなし渡航まで認めるほどの友好的な関係に何故あるのかと、不思議に思ったに違いない。

実際調べてみると、北朝鮮は1991年9月17日に国連に韓国と同時加盟しており、国連加盟国193ヵ国(2016年9月現在)の一国に数えられ、世界の約80%以上に当たる、162ヵ国が北朝鮮と国交を結んでいる。

さらに、国交を結んでいる162ヵ国の中で、北朝鮮が在外公館を置いている国は、旧ソ連の影響下にあった東欧諸国や中央アジア、アフリカ新興国を中心に47ヵ国あり、その内モンゴル、中国、ラオス、ベトナム、カンボジア、マレーシア、インドネシア、インド、パキスタン、イラン、シリア、パレスチナ、英国、ドイツ、チェコ、ポーランド、スウェーデン、ルーマニア、ブルガリア、ロシア、リビア、エジプト、ナイジェリア、キューバの24ヵ国が、平壌に大使館を置いている。

一方、東南アジアのASEAN諸国10ヵ国との関係に目を向けると、今回のテロ事件と同様、1983年9月に北朝鮮がミャンマー(当時はビルマ)の首都ラングーン(現:ヤンゴン)で起こした、韓国の全斗煥大統領を狙った「ラングーン爆破テロ事件(アウン・サン廟爆破事件)」を理由に一時両国は国交を断絶したが2007年4月26日に国交を回復し、ASEAN加盟10ヶ国と国交が結ばれている。

中でもマレーシア、インドネシア、カンボジア、ラオス、ベトナムの5ヵ国が双方に大使館を置く外交関係にあり、東南アジアにおける東西冷戦時代からの繋がりの歴史と北朝鮮の外交面での後見人ともいえる中国の力の大きさが垣間見えてくる。

以上の点を考えて北朝鮮を取り巻く外交関係を見た場合、ドイツのように東ドイツの遺産を引き継ぐ形で平壌に大使館を置いている国もあるが、EUの加盟国でも北朝鮮と国交の無い国がフランスとエストニアだけであるという事実や北朝鮮と深い利害関係を持ちながら外交関係が結ばれていない日本、韓国、アメリカを見ると、安全保障問題だけに限定して見ても朝鮮半島の歴史的、政治力学、地政学的が複雑に絡み合ったパワーバランスが垣間見えてくる。

また、日本は国連加盟193ヵ国の内、日本、北朝鮮を除いた191ヵ国プラス国連未加盟のバチカン、コソボ、クック及びニウエの4ヵ国を加えた195ヶ国と国交を結び、アメリカを中心に据えて、全方位外交を展開しているが、朝鮮半島の地政学バランスを利用して特定の国の外交力を巧みに利用した外交施策を展開する北朝鮮との違いを深く認識して、拉致問題や核ミサイル開発問題を考えなければならない。